日本固有の武士道を研究するのに、日本の歴史を離れかつ日本人の伝統、習性を閑却して、これが真髄を会得することは出来ない。またマルクスを研究するには、単にその理論のみに没頭し、マルクスその人がユダヤ人たることを忘れ、かつユダヤ民族に関し、全然無関心、無知識では、その真相を捉えることはできない。これと同じ意味で、ユダヤ民族の思想およびその活動を会得するのに、まず第一に必要なことは、その歴史的観察と、ユダヤ民族そのものの研究である。
国際連盟における問題にせよ、ナチス問題並びに思想問題にせよ、事いやしくもユダヤ民族によって生じたあらゆる事象を、正当にはたまた根本的にこれを理解するために、以上の研究は最も大切なる前提であるから、まずこれについて述べることにする。
1.ユダヤ民族の南下とユダヤ国建設
ユダヤ民族は、その歴史を観察するのに、その開闢以来、転々として民族移動を為し、ついに今日のように、全世界に全民族を分散流布するに至ったということは、真に奇しき運命の民族であると思う。
そもそもユダヤ民族は、その昔、今からちょうど四千年前に、メソポタミヤの地方に、エホバの神を奉じつつ遊牧しておった民族で、その族長アブラハムに率いられ、ユーフラツト河をわたり、カナンの地たる今のパレスチナに定住した。しかるにその後さらに南方に移動し、西暦紀元前1550年から1320年まで、約200年の間エジプトに居住したが、1320年族長モーゼに率いられてエジプトを脱出し、カナンの地に復帰した。
しかるにユダヤ民族は、その後十二支族に分かれて相争い、民族の統制が保たれないので、時の高僧サムエルは、ソールという人をたてて国王を為し、ここに初めてユダヤ王国なるものが建設せられたのである。