自序
私がここに在郷軍人会本部のご依頼によって、ユダヤ民族に関し、私の研究の一端を説述する機会を与えられたことは、真に光栄に存する次第である。
ユダヤ人に関する問題は、世界の経済、思想、外交等各種の方面に関係を有し、しかもその範囲は、ユダヤ民族が地球のあらゆる方面に分散していると同様、地球全面に渡っている広範な問題である。従ってユダヤ民族に関する全ての方面に立ち入り、深く検討することは、もとよりこの小冊子の許すところではない。
しかしながら日本人が、尚永く小島国に蟄居しているならば格別であるけれども、今や大和民族は、時到ってその国是たる天業を恢弘すべく、既に大陸に乗り出し、我が日の本の光は皓々として、東洋の一角から世界を照らし始めている。我々大和民族は、これからあらゆる障害を排除し、盤根錯節を超え、我が国の使命遂行に向かって邁進し、世のあらゆる邪悪を剪除し、全世界の人類のために、皇道に立脚する真の世界平和を招来せしめねばならぬ。
この意味において、世界の各種方面に隠然たる大勢力を有する、不可思議なるユダヤ民族について、我々が其の実相を捉えておくことは、極めて必要なことであると思う。
またユダヤ人勢力の影響は、単に吾人の対外的の問題ばかりでなく、対内的にも有形無形上大なる関係を持っている。従って我々は、事いやしくもユダヤ勢力の影響ある問題に関しては、ユダヤ民族を認識して、外に処すると同時に、内に顧みる必要があると考える。
ユダヤ問題は、世界的には最も古い問題であるが、我が国にとっては、極めて新しく、また極めて重要な問題である。従来ユダヤ民族に関する研究は、彼らユダヤ人が顕然たる国家を有せず、かつその活動が直接吾人の耳目に触れないのと、今一つは彼らが国際的民族なるため、その影響を吾人の日常生活の利害の上に、直接認識し得ないところから、問題の無いところにわざわざ問題を作るが如く考え、あるいは全く無関心にこれを看過する人々も少なくなかった。
しかしながら過般ユダヤ勢力が、国際連盟の日支交渉問題において顕然として現れ、また思想経済問題において、彼らの活動が明らかに認識されるに及んで、今更の如く、ユダヤ民族の勢力を、人々が感得するようになった。
私は今まで隠れたるユダヤ人の勢力について、本書の許す限りにおいて、研究の一端を紹介しようと思う、それにつき最初に一言しておきたいのは、私は本書を借りてユダヤ民族を呪詛しようというのではない、また親ユダヤ主義を鼓吹しようとするのでもない。私の観察しているユダヤ民族を、ありのまま読者の前に展開し、ユダヤ民族に関する認識を、多少なりとも深からしめたいと思うのである。従って全く公正なる立場において、親疎いずれにも与せず、本書に筆を執る次第である。
昭和九年 盛夏