国際連盟の項で、フリーメーソンという言葉が出たから、ここにフリーメーソンについて、そのいかなるものであるかを、ごく簡単に説明しておく必要があると思う。

さてフリーメーソンについては、近頃我が国においても一般に認識されるようになったが、フリーメーソンと言えば、直ちにユダヤ人を想像するほど、ユダヤ人とは密接な関係を持っているのである。中にはフリーメーソンの陰謀は、すなわちユダヤ人の陰謀であると看做すものもあるくらいである。

フリーメーソンは一名、マツソンと呼ばれる世界的大秘密結社で、以前は日本人の中でも、マツソンとかフリーメーソンとかいう結社は、世界に存在していない架空のものであると考えたり、あるいはロータリー倶楽部のような一種の社交的団体であると思うたくらい、これに対する認識が極めて薄弱であったけれども、現在ではこのフリーメーソンの結社の存在を、否定するような非常識な学者も無くなったようである。欧米ではこのフリーメーソン結社について、今から私が説明するくらいの程度のことは、一般の人の常識として心得ているほどである。

従ってフリーメーソンは、その勢力世界各国にわたり、その結社員は、各国ともその国の有力者を網羅し、数万ないし数百万に及んでいる。その内容及び策動はもちろん秘密にされているけれども、各国にその結社のロッヂ(結社員会合のための会堂)の存在すること及び自ら結社員たることを秘せざるごとき、ほとんど公然の秘密とされているくらいで、フリーメーソンは秘密結社というよりは、むしろ公開せざる結社という方が適当かもしれない。事実、フリーメーソンの結社員で、フリーメーソンは秘密結社にあらずして、公開せざる結社なりと、言うている人さえあるのである。

フリーメーソンのその起源非常に古く、判然したことは明らかでないが、昔ソロモン殿堂の建築技師として有名なヒラムが、その創設者であると主張している派があり、またローマ時代の建築組合がその前身であるといい、あるいは14世紀頃にあった聖堂騎士の組合が、その濫觴であると言うているが、これは国々の組合における主張であって、もとより判然した証拠はない。

しかしウィヒテル博士の研究によると、英国における昔の石工などの職工組合から発達したものであるというのが、最も確かなようである。昔工芸技術の発達しなかった頃に、この組合は独特の技術を保持しておったため、当時における欧州各国の大建築は、王侯の大殿堂をはじめとして、この職工組合すなわちフリーメーソンの手にかけたものが少なくなかった、したがってこの組合は社会的に非常なる勢力を有し、各国の王宮から特別の待遇を受け、特別の自由を与えられ、そして各国を遍歴した。またこの組合員の中には、不文律の規定や独特の仁義が成立しておって、彼ら特有の伝統を持っていた。

その後18世紀になって、この職工組合なるフリーメーソンは、当時の牧師ヤコブ・アンダーソンによって、憲法が起草され、職工フリーメーソンが、精神的フリーメーソンに変化するに到った。その後結社はひとり職工のみでなく、各方面の有力者を歓迎し、ますます発達を遂げた。そしてこの精神的フリーメーソンは、英国を根拠として、欧州諸国はもちろん米大陸にも及び、各結社はその国々において特殊の発達を遂げ、今日に及んでいる。

もちろんこのフリーメーソンが、しばしば国体破壊の原動力をなしたことから、例えばハンガリー、イタリー、およびナチスのドイツにおいては、その結社に解散を命じ、ロッヂを没収した。また最初から結社を厳禁している国々もあるが、しかし全般的には、依然として世界的一大勢力であるということを、認めなければならない。

このフリーメーソンは、最初ユダヤ人の入社を絶対に許さなかった、それでいてフリーメーソンの暗号や、各種の規定等に、ユダヤ式なところが非常に多く、ある結社では、その首領たる棟梁の命令は、生けるソロモン王の命令であるとしているところがある。かくのごときユダヤ関係は、ユダヤ人が結社に入ってそれを入れたものではなく、旧約聖書から色々の点を採用したもので、このためにユダヤ式の点が濃厚であると説明する向きもある。

とにかく各国のフリーメーソン結社は、ユダヤ人の入社を全然許さなかったのであるが、18世紀の末葉、ドイツのフランクフルト・アム・マインにおいてユダヤ人を採用し始めたのをきっかけに、逐次にユダヤ人の入社するものを増加し、ついに19世紀に到っては、ユダヤ人なき結社なしと言わるるほど、この結社にユダヤ人が多数を占めるようになった。

ユダヤ人は一旦結社員となるや、結社員中最も忠実熱心なる結社員として、ついにその勢力を獲得し、19世紀末よりフリーメーソンを左右するものは、ユダヤ人であるとみなされるに到った。フリーメーソンは大体において、見習い、徒弟、職工、棟梁等各種の階級に分かれ、なお国によって33階級、95階級等多数の階級に分かれている。

すなわちユダヤ人がフリーメーソンの勢力を獲得したことは、要するにフリーメーソンの上層階級を占めるに到ったことである。なにゆえにユダヤ人がフリーメーソン結社員として、かく熱心であるかというに、ユダヤ民族は元来国家を持たない民族であるから、色々な活動をなす上について、世界的の大団結の中に、彼らが根拠を置くことは、非常に便利であり、またインターナショナル式の結社を利用することは彼ら分散生活者にとって、最も好都合であるからである。

西洋では金持ちになりたければ、フリーメーソンに入れというくらい、彼らの仲間は国際的に、共通性を持っているのである。フリーメーソンのモットーとする所は、自由、平等、博愛であって、各結社員は相互に、国家および民族を超越して、兄弟と呼んでいる。そしてこの兄弟は、相互扶助と連帯責任の連鎖によって、固く連結され、しかもその階級に応じて絶対服従を要求し、秘密厳守は死をもって誓っている。かのフランス大革命のモットーは、このフリーメーソンのモットーと全然同じであるので、フランス大革命はフリーメーソンの革命であると、欧州では一般に常識的に、認められている。

我が国においては維新以来自由という言葉、平等、博愛等の主義が輸入され、ついに民主主義敵思想が我が社会に普及するに至ったが、これらは要するに、このフリーメーソンの思想の輸入されたものである。したがって思想的に見て、フリーメーソンは我が国に間接に大なる影響をもたらしたものと言いうるであろう。

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